2025年 | プレスリリース?研究成果
ゲノムマイニングにより新たなピラノピロール型天然物を発見 マイクロ電子回折装置を利用して、複雑な化学構造を精密に決定
【本学研究者情報】
〇大学院薬学研究科 医薬資源化学分野
教授 浅井禎吾
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- ゲノムマイニング(注1)という手法により、天然にはまれなピラノピロール型骨格を有する新たな天然物olumilideを発見しました。
- マイクロ電子回折装置 (microED) を利用して、天然物の微細結晶試料から化学構造を精密に決定しました。
- 今回発見した新規化合物をもとにした活性化合物の探索や創薬研究が可能になることが期待されます。
【概要】
近年、遺伝子配列の情報に基づいて天然物の生合成に関わる遺伝子を探すゲノムマイニングと異種発現(注2)を基盤とする合成生物学(注3)の手法が確立され、遺伝子資源を材料とした天然物探索研究が盛んに進められています。
東北大学大学院薬学研究科の浅井禎吾教授の研究グループは、ポリケチド合成酵素-非リボソームペプチド合成酵素 (PKS-NRPS) ハイブリッド(注4)に着目したゲノムマイニングを実施しました。その結果、新規化合物olumilideを発見し、日本電子株式会社及びリガク?ホールディングス株式会社により共同開発されたマイクロ電子回折装置 (microED) であるXtaLAB Synergy-EDを利用することで、その化学構造を精密に決定しました。これにより、本化合物群がこれまでに例のない新規構造を有することを明らかにしました。また、本化合物群について感染症治療薬シーズの探索を指向した広範囲にわたる生物活性評価を実施しました。本研究は、東北大学、北海道大学、リガク?ホールディングス株式会社、日本電子株式会社、国立感染症研究所、長崎大学、山形大学および豪州Griffith大学による共同研究の成果です。
本成果は2025年7月25日付で科学誌Organic Lettersにオンライン掲載されました。

図1. ピラノピロール型天然物の化学構造
【用語解説】
注1. ゲノムマイニング:生合成研究の情報をもとに、目的の生合成遺伝子をデータベースなどの遺伝子情報から探索する方法。生合成研究の飛躍的な発展により、遺伝子情報から生産される化合物の特徴がある程度予想できるようになった。一方で、未開拓な生合成遺伝子が豊富に存在することも明らかとなり、新規天然物の生合成に関連した遺伝子が数多くゲノム上に隠されていることもわかってきた。
注2. 異種発現:遺伝子機能を解析する手段の一つ。糸状菌の遺伝子機能を調べるホストとしてAspergillus oryzae (麹菌) が良く用いられている。導入した外来遺伝子がホスト内で発現し、それによって生じたタンパク質の機能を、表現型を通じて解析する手法。天然物生合成経路に関わる遺伝子を異種発現することで、生合成経路を再構築することができ、導入した遺伝子にコードされる生合成経路で作られる天然物を生産することができる。遺伝子情報を天然物へと変換できる強力なツールとしても利用されている。
注3. 合成生物学:目的の機能を有する生物を設計し構築する学問領域。天然物の領域では、生合成遺伝子を導入することで目的の天然物の生産能を有する微生物や植物を作り出す目的で実施される。遺伝子情報を天然物へと変換する強力な手法である合成生物学的手法は、天然物の複雑な化学構造に起因する安定供給や構造展開の難しさなど、天然物を利活用する際のボトルネックを解消し、天然物をもとにする創薬を可能にする学術領域として期待されている。
注4. ポリケチド合成酵素-非リボソームペプチド合成酵素 (PKS-NRPS) ハイブリッド:ポリケチド合成酵素 (PKS) と非リボソームペプチド合成酵素 (NRPS) が融合した生合成酵素。PKSにより生合成されるアシル鎖を、NRPSによりアミノ酸?ペプチドと縮合することで、様々な天然物の基本骨格を構築する。
【論文情報】
タイトル:Genome mining-based discovery of pyrano[2,3-c]pyrrole type natu-ral products possessing alkyl side chain with branched methyl groups
著者:Yue Shi, Taro Ozaki,* Yohei Morishita, Tohru Taniguchi, Hiroyasu Sato, Yoshitaka Aoyama, Akihiro Sugawara, Kaho Numata, Tomoya Fuse, Ryo Matsuda, Kento Hosotani, Hanako Fukano, Yoshihiko Hoshino, Aki Hirabayashi, Masato Suzuki, Jiro Yasuda, Rokusuke Yoshikawa, Hironori Hayashi, Eiichi N. Kodama, Yoshitaka Shimotai, Hiroshi Hamamoto, Rohan A. Davis, Teigo Asai*
*責任著者:東北大学大学院薬学研究科 教授 浅井禎吾、准教授 尾﨑太郎
掲載誌:Organic Letters
DOI: 10.1021/acs.orglett.5c02504
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院薬学研究科
教授 浅井 禎吾
TEL:022-795-6822
Email:teigo.asai.c8*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)
東北大学大学院薬学研究科
准教授 尾﨑 太郎
TEL:022-795-6824
Email:taro.ozaki.d3*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院薬学研究科
総務係
TEL:022-795-6801
Email:ph-som*grp.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)
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