2025年 | プレスリリース?研究成果
慢性便秘治療薬ルビプロストンの腎保護作用を世界で初めて臨床試験で確認-腸内細菌叢の改善でミトコンドリア機能が向上-
【本学研究者情報】
〇大学院医学系研究科病態液性制御学分野
大学院医工学研究科分子病態医工学分野
教授 阿部高明
研究者ウェブサイト
〇東北大学病院 腎臓?高血圧内科
医師 渡邉駿
研究者ウェブサイト
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【発表のポイント】
- 慢性便秘治療薬ルビプロストン(注1)が慢性腎臓病(CKD)(注2)患者の腎機能の悪化を抑制することを世界で初めて確認しました。
- 患者検体の網羅的解析(注3)から、ルビプロストンは腸内細菌叢(注4)を変化させることで、ミトコンドリア(注5)機能を改善するスペルミジン(注6)の産生を促進し、腎臓のミトコンドリア機能を改善することが明らかとなりました。
- 本成果は、腸内環境を変化させることによりミトコンドリア機能を改善し、腎機能低下を抑制できる新しい治療戦略の可能性を示します。今後はCKDのみならずミトコンドリア異常疾患の治療開発への応用が期待されます。
【概要】
CKDは世界の主要な健康問題の一つです。腎不全が進行すると透析に至るため、その治療法の開発が急務ですが、腎機能を改善する薬はありませんでした。
東北大学大学院医学系研究科および医工学研究科の阿部高明教授らの研究グループは、CKD患者では合併する便秘によって腸内細菌叢の乱れが生じ腎機能の悪化につながると考えました。そこで国内9つの医療機関で中程度のCKD患者118名を集め、ルビプロストンの腎機能に対する効果を検証する第Ⅱ相臨床試験(注7))の多施設共同臨床試験(LUBI-CKD TRIAL)を実施しました。その結果、ルビプロストン8 ?gおよび16 μgを投与した患者群では、プラセボ群と比較して腎機能(eGFR)(注8)の低下が用量依存的に抑制されました。そのメカニズムとして、ルビプロストンによってミトコンドリア機能を改善するスペルミジンを産生する菌が腸内で増え、血中のスペルミジン濃度が上昇して腎臓のミトコンドリア機能を改善することで腎保護効果をもたらすことを明らかにしました(図1)。本成果は、下剤が腸内環境を変化させることでミトコンドリアを介して腎機能低下を抑制できるという新しい治療戦略の可能性を示すものであり、今後CKDのみならずミトコンドリア異常疾患の治療開発への応用が期待されます。本研究成果は、2025年8月30日付で、科学誌Science Advancesに掲載されました。

図1. 本研究成果の概念図
ルビプロストンの投与により腸内細菌叢が変容し、aguA及びポリアミンの増加を介して腎機能の改善につながるミトコンドリア機能の改善が生じます。
【用語解説】
注1.ルビプロストン: 小腸のクロライドチャネルを活性化させて腸管内への水分泌を促し、便を柔らかくすることで排便を促進する慢性便秘症治療薬。
注2. 慢性腎臓病(CKD): 腎臓の働きが健康な人の60%未満に低下するか、あるいはタンパク尿など腎臓の異常が3カ月以上続く状態。進行すると透析や腎移植が必要になります。
注3. 網羅的解析(マルチオミクス解析):遺伝子やタンパク質、代謝物など、体の中の様々な物質を一度に大量に測定し、生命現象を全体像として捉える研究アプローチ。
注4. 腸内細菌叢:私たちの腸内に生息する、多種多様な細菌の集まり。『腸内フローラ』とも呼ばれます。
注5. ミトコンドリア: 細胞内に存在する小器官で、酸素を使って生命活動に必要なエネルギーの大部分を作り出すため、「細胞のエネルギー工場」と呼ばれています。
注6. スペルミジン: 体内のほぼすべての細胞に存在するポリアミンの一種。細胞の成長や機能維持に必須で、近年、ミトコンドリア機能の改善や抗炎症作用、長寿への関与などが報告され注目されています。
注7. 第Ⅱ相臨床試験:新しい薬や治療法を開発する過程で行われる臨床試験(治験)の段階の一つ。少数の患者さんを対象に、薬の有効性(効果があるか)、安全性、そして最適な投与量などを調べることを目的とします。
注8. 推算糸球体濾過量 (eGFR): 血清クレアチニン値などから、腎臓が老廃物を排泄する能力(糸球体濾過量)を推算した値。腎機能の重要な指標です。
【論文情報】
タイトル:Lubiprostone in Chronic Kidney Disease: Insights into Mitochondrial Function and Polyamines from a Randomized Phase 2 Clinical Trial
著者: Shun Watanabe, Masaaki Nakayama, Takashi Yokoo, Satoru Sanada, Yoshifumi Ubara, Atsushi Komatsuda, Katsuhiko Asanuma, Yusuke Suzuki, Tsuneo Konta, Junichiro J Kazama, Takehiro Suzuki, Shinji Fukuda, Tomoyoshi Soga, Takuji Yamada, Sayaka Mizutani, Mitsuharu Matsumoto, Yuji Naito, Kensei Taguchi, Kei Fukami, Hitomi Kashiwagi, Koichi Kikuchi, Chitose Suzuki, Hidetaka Tokuno, Marina Urasato, Ryota Kujirai, Yotaro Matsumoto, Yasutoshi Akiyama, Yoshihisa Tomioka, Shun Itai, Yoshiyasu Tongu, Eikan Mishima, Chiharu Kawabe, Tomoko Kasahara, Yoshiaki Ogata, Takafumi Toyohara, Takeya Sato, Tetsuhiro Tanaka, Takaaki Abe* and the LUBI-CKD TRIAL Investigators
*責任著者:東北大学大学院医学系研究科?医工学研究科 教授 阿部高明
掲載誌:Science Advances
DOI:https://doi.org/10.1126/sciadv.adw3934
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科病態液性制御学分野
大学院医工学研究科分子病態医工学分野
教授 阿部高明
Email: takaaki.abe.d1*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院医学系研究科?医学部広報室
TEL:022-717-8032
Email: press.med*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
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