2025年 | プレスリリース?研究成果
酸化亜鉛における電界制御三重量子ドット形成と量子セルオートマトン効果を観測 ─量子コンピュータ開発に向けた新材料量子ビットシステムの構成や情報処理応用に期待─
【本学研究者情報】
〇材料科学高等研究所/電気通信研究所 准教授 大塚朋廣
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- 酸化物半導体の酸化亜鉛を用いて、三重量子ドット(注1)の形成に成功し、量子ドット間結合の制御を実現しました。
- 三重以上の多重量子ドットに特有の現象である、量子セルオートマトン(QCA)効果(注2)を観測しました。
- 酸化亜鉛を利用した量子ビットシステムの構成や、情報処理への応用が進展することが期待される成果です。
【概要】
酸化亜鉛はその良好なスピン量子コヒーレンス(注3)や強い電子相関(注4)から、量子ビット(注5)を含めた量子デバイスへの応用が期待されています。これまで、酸化亜鉛において電界制御の単一量子ドットの形成等が確認されていましたが、量子コンピュータ(注6)等への応用に際しては、量子ドットの数を増やすことが課題とされてきました。
東北大学材料科学高等研究所(WPI-AIMR)の大塚朋廣准教授(同大学電気通信研究所兼任)らの研究チームは、酸化亜鉛ヘテロ構造を用いて三重量子ドットの形成に成功し、さらに、それぞれの量子ドットが少数電子状態(注 7)に到達していることを確認しました。また、QCA効果と呼ばれる、三重以上の多重量子ドットに特有の現象を観測しました。
酸化亜鉛デバイスで少数電子三重量子ドットを形成できたことで、酸化亜鉛量子ドットを用いた量子ビットシステム構成や、情報処理への応用が進展することが期待されます。
本研究成果は、2025年10月21日(現地時間)に科学誌Scientific Reportsにオンライン掲載されました。
図1. (a)作成したデバイス構造。(Mg, Zn)OとZnOの界面に形成された二次元電子ガスにゲート電圧を印加することで電子を閉じ込め、量子ドットを形成する。(b)作成したデバイスの走査型電子顕微鏡写真。下半分の領域に三重量子ドットが形成され、上半分の領域にセンサー量子ドットと量子ポイントコンタクトが形成される。
【用語解説】
注1. 量子ドット
数十nmの微小な領域に電子を閉じ込めた構造。特に電界制御によって電子を閉じ込めたものは量子閉じ込め効果等により人工的に制御できる量子状態が形成されるため、量子コンピュータに向けた量子ビット等として利用できる。形状のみにより閉じ込める自己形成量子ドットに比べて制御性が高い。
注2. 量子セルオートマトン(QCA)効果
量子ドット間の電子の相互作用により複数の電子移動が同時に起こる現象をここでは指す。三重量子ドット以上の多重量子ドットで観測される。電子配置を情報処理に向けて活用できる可能性がある。
注3. 量子コヒーレンス
良好な量子状態やその保持時間。良好な量子コヒーレンスは量子コンピュータ等に必須となる。
注4. 電子相関
電子間の相互作用。うまく活用すれば、離れた量子ビット間の量子操作など新しい量子技術の芽になると期待されている。
注5. 量子ビット
量子状態を保持して演算を行うための素子。量子コンピュータの基本構成素子となる。
注6. 量子コンピュータ
量子状態を活用して情報処理を行うコンピュータ。従来のコンピュータでできない情報処理が可能になると期待されている。
注7. 少数電子状態
量子ドット内の電子数が数個程度でよく定まっている状態。例えば電子数1個の状態は電子のスピンを用いたスピン量子ビット等で活用される。
【論文情報】
タイトル:Formation of few-electron triple quantum dots in ZnO heterostructures (酸化亜鉛ヘテロ構造を用いた少数電子三重量子ドットの形成)
著者:Koichi Baba, Kosuke Noro, Yusuke Kozuka, Takeshi Kumasaka, Motoya Shinozaki, Masashi Kawasaki, and Tomohiro Otsuka*
*責任著者:東北大学材料科学高等研究所 准教授 大塚朋廣
掲載誌:Scientific Reports
DOI:10.1038/s41598-025-20567-9
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学 材料科学高等研究所(WPI-AIMR)
(兼)東北大学 電気通信研究所
(兼)東北大学 大学院工学研究科
(兼)東北大学 Tohoku Quantum Alliance (TQA)
(兼)東北大学 先端スピントロニクス研究開発センター
准教授 大塚 朋廣
TEL: 022-217-5509
Email: tomohiro.otsuka*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学 材料科学高等研究所(WPI-AIMR)
広報戦略室
TEL: 022-217-6146
Email: aimr-outreach*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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