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膵がんに薬が届くのを阻む「線維化障壁」の形成メカニズム解明:コラーゲンの生理活性を標的とした治療戦略開発に期待

【本学研究者情報】

〇大学院医学系研究科消化器病態学分野
教授 正宗淳
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 代表的な難治がんである膵がんでは、がん細胞を囲う「線維化」が、薬剤のがん細胞への到達に対する「障壁」となり、治療成績を悪化させます。
  • 線維化組織中のコラーゲンは薬剤送達を物理的に妨害すると考えられていましたが、本研究では初めてコラーゲンの生理活性の寄与を明らかにしました。
  • コラーゲンの生理活性(シグナル)を標的とすることで、膵がんにおける「線維化障壁」を克服する新たな治療戦略につながると期待されます。

【概要】

岡山大学学術研究院医歯薬学域(薬)の田中啓祥助教、学術研究院ヘルスシステム統合科学学域の狩野光伸教授、東北大学大学院医学系研究科の正宗淳教授らの研究グループは、膵がんの特徴であり、難治化の原因である「線維化障壁」の形成に、線維性タンパク質?コラーゲンの生理活性が重要な役割を果たすことを初めて明らかにしました。これらの研究成果は2025年10月31日、科学雑誌「Small」に掲載されました。

多くのがんにおいて治療成績が近年改善している中で、膵がんの5年生存率はいまだ1割ほどです。膵がんにおいて、がん細胞周囲に特徴的に認められる「線維化」(1)は、薬剤のがん細胞への到達を阻む障壁となり、治療成績を悪化させます。特に、線維化組織中に最も多量に存在するコラーゲンが、薬剤送達を物理的に妨害することで「線維化障壁」が形成されると従来考えられていました。

本研究では、独自の立体培養(2)技術を駆使して、線維化障壁形成メカニズムを解析し、コラーゲンの「物理的な線維」としての寄与に加え、「生理活性を有するシグナル分子」としての寄与を突き止めました。本研究成果は、コラーゲンの生理活性を標的とした治療戦略の開発による膵がんの「線維化障壁」克服の可能性を示唆するもので、膵がんの治療成績の改善を実現していく足掛かりとなることが期待されます。

図1:線維性タンパク質?コラーゲンの線維化障壁形成における役割の多面性

【用語解説】

注1.線維化:過剰に増殖した線維芽細胞(下記用語(3)参照)と、これら線維芽細胞が多量に分泌したコラーゲン等の線維性のタンパク質が蓄積した病的な状態。膵がんの特徴であり、がん細胞を取り囲むように線維化が存在する(線維化により形成される「海」の中に膵がん細胞の「島」が点在している構造)。

注2.立体培養:従来の培養細胞実験は、プラスチック製のシャーレ「平面」上で実施されてきた。こうした平面培養の実験系では、生体組織が有する立体的な構造を再現することができない。立体培養技術は、体内の環境を平面培養に比べてよりよく再現することを可能とする技術群の総称で、動物実験を補完?代替する実験技術として近年注目されている。

(3)線維芽細胞:線維化において過剰な増殖が認められる紡錘状の細胞で、コラーゲン等の線維性のタンパクを分泌する。正常な状態では臓器?組織の適度な強度や構造の維持に重要な役割を果たすが、線維化ではコラーゲン等の分泌が過剰となり、臓器?組織の硬化を引き起こす。

【論文情報】

タイトル:Collagen Signaling via DDR1 Exacerbates Barriers to Macromolecular Drug Delivery in a 3D Model of Pancreatic Cancer Fibrosis
著者: Mayu Ohira, Moe Kitamura, Hiroyo Iwasaki, Haruko Ohta-Okano, Hiyori Tsujii, Reika Nakamura, Takuya Nakazawa, Akihiro Nishiguchi, Masaya Yamamoto, Kensuke Osada, Shinichi Toyooka, Horacio Cabral, Atsushi Masamune, Mitsunobu R. Kano, Hiroyoshi Y. Tanaka
掲載誌:Small
DOI:10.1002/smll.202506926
U R L:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/smll.202506926

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科消化器病態学分野
教授 正宗淳
TEL:022-717-7171
Email: atsushi.masamune.d2*tohoku.ac.jp (*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学大学院医学系研究科?医学部広報室
TEL:022-717-8032
Email: press.med*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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