2025年 | プレスリリース?研究成果
機能性流体を用いた誘発地震抑制技術の開発に成功 ―地震を起こす断層滑りにブレーキをかける地震抑制技術の黎明―
【本学研究者情報】
〇流体科学研究所 准教授 椋平祐輔
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- 機能性流体の一種であるせん断増粘流体(STF)(注1)は、普段は液体ですが、強い力が加わると急に固くなる性質を持っています。断層に導入すると、地震が抑制できると考え、その可能性を探求しました。
- 摩擦実験を行った結果、岩石粉末だけの場合は地震が起きますが、STFを混ぜると地震にならない安定した滑りに変わりました。
- STFを用いた誘発地震抑制技術は、地熱発電、非在来型資源、CO?地下貯留、鉱山開発などで問題となる誘発地震のリスク低減に役立つ可能性があります。
- 将来的には、断層に直接STFを注入することで、より安全な地下資源開発や地震の制御の実現に貢献すると期待されます。
【概要】
様々な地下開発では、地下に流体を注入する際に断層の応力状態が変化し、微小地震が発生しますが、時に被害を伴う誘発有感地震(注2)が発生してしまうことがありました。これまで、注入する流体の量を減らすなどの対策が試みられてきましたが、経済性や技術的な制約があり、抜本的な解決策は見つかっていませんでした。
東北大学流体科学研究所の椋平祐輔准教授、Lu Wang氏(研究当時:流体科学研究所 特任助教)、大学院理学研究科附属地震?噴火予知研究観測センターの矢部康男准教授、大学院理学研究科地学専攻の澤燦道助教、武藤潤教授の研究グループはせん断増粘流体(STF)を、断層を模擬した粉末に付与し、その摩擦特性を実験的に調べました。その結果、STFを用いると断層の摩擦特性が変化し、断層滑りを安定化させ、地震の発生を抑制できる可能性を示しました。
今回の成果は、STFを使ってより安全な地下資源開発を実現できる他、将来的に地震の抑制技術開発の第一歩となる可能性もあります。
本研究成果は、2025年12月19日付で、米国地球惑星連合の国際学術誌Geophysical 雷速体育_中国足彩网¥在线直播 Lettersに掲載されました。
図. 摩擦パラメータのうち臨界滑り量の断層の滑り速度に対する変化。黒四角がSTF付加サンプル、白四角が模擬断層粉末のみのサンプルの結果を示す。STF付加サンプルは、滑り速度の増加に比して臨界滑り量も増加している。断層滑りはゆっくりと開始し、拡大し、臨界滑り量を越えた時に高速になり地震になるとされているパラメータです。臨界滑り量が増加するということは、なかなか地震にならない事を意味します。
【用語解説】
注1. せん断増粘流体(STF):流れのせん断応力が流れの速度勾配に比例しない、粘性係数が一定ではない非ニュートン流体の一種で、ダイラタンシー流体とも言います。せん断速度の変化量に応じて粘度が変わり、サラサラした状態の時に強く力をかけると、力をかけたところだけが固くなるといった現象を起こします。片栗粉を水で濃く溶いたものもこの流体です。
注2. 誘発有感地震:地下への注水,流体資源の抽出,掘削,ダムへの貯水など人為的開発行為によって地下の状態が変化し発生するのが誘発地震です。ほとんどの場合、地震の規模を示すマグニチュードは2以下で,地上で感じることはありません。誘発地震の情報は地下構造の推定など工学的に利用されます。ごく稀に地上で有感となり,被害を及ぼす誘発有感地震となる事例が報告されています。
【論文情報】
タイトル:Induced Earthquakes Inhibited by Shear Thickening Fluid
著者: Lu Wang, Yusuke Mukuhira*, Yasuo Yabe, Sando Sawa, Jun Muto
*責任著者:東北大学流体科学研究所 准教授 椋平祐輔
掲載誌:Geophysical 雷速体育_中国足彩网¥在线直播 Letters
DOI:10.1029/2025GL118281
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学流体科学研究所
准教授 椋平 祐輔
TEL: 022-217-5235
Email: mukuhira*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学流体科学研究所
国際研究戦略室(広報)
TEL: 022-217-5873
Email: ifs-koho*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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