2025年 | プレスリリース?研究成果
植物の永続的な成長を支える分子機構を解明 ~成長点の司令塔を担う転写因子が鍵~
【本学研究者情報】
〇生命科学研究科 助教 鈴木秀政
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- コケ植物ゼニゴケを用いて、植物の無限成長を可能にするメカニズムを解明した。
- 植物ホルモンのオーキシンに応答する遺伝子の発現を抑制する転写因子MpARF2は、幹細胞領域とその周辺領域から構成される成長点の形成と維持に必須な働きをする。
- MpARF2は幹細胞領域で高発現してオーキシン応答を抑える一方、オーキシン生合成酵素を活性化してオーキシンの生産を促す。
- 幹細胞領域で作られたオーキシンは、オーキシン輸送タンパク質によってその周辺領域に運ばれ、器官形成を促すシグナルとして働く。
- 幹細胞領域は、オーキシンを介して周辺領域の分化を指示しつつ、自身はその影響を受けないという、成長点の司令塔(オーガナイザー)として機能しており、MpARF2はその中核的な因子である。
【概要】
東京理科大学 創域理工学部 生命生物科学科/総合研究院 生命のゆらぎ研究部門の西浜 竜一教授(元京都大学准教授)、同大学大学院 創域理工学研究科 生命生物科学専攻の今井 雄星元大学院生、京都大学大学院 生命科学研究科の河内 孝之教授、灰庭 瑛実元大学院生、木南 武元大学院生、東北大学 大学院生命科学研究科の鈴木 秀政助教(元京都大学大学院生)、帝京大学 先端機器分析センターの湯本 絵美技術職員、同大学 理工学部 総合理工学科/先端機器分析センターの朝比奈 雅志教授らは、モナシュ大学、ケンブリッジ大学と共同で、植物の幹細胞は分化を促進するホルモンを作るものの、自身はその影響を受けずに周辺で器官形成を促す成長点形成のしくみがあり、それが植物の永続的な成長の基盤となっていることを明らかにしました。本成果は植物の巧みな発生戦略と陸上植物の繁栄を導いた進化の一端を明らかにする発見であり、植物のサイズや形を自在に制御する技術の開発につながると期待されます。
植物は成長点(※1)に存在する幹細胞(※2)が未分化性を保ちながら分裂を続けることで、一生にわたり新しい器官をつくり続けます。本研究では、こうした無限成長(※3)のしくみをコケ植物(※4)のゼニゴケ(※5)を用いて明らかにしました。研究チームは、植物ホルモン「オーキシン(※6)」の作用を抑える転写因子 MpARF2(※7) に着目し、その機能を解析しました。その結果、MpARF2 は幹細胞領域で高く発現してオーキシン応答を抑える一方、オーキシン生合成酵素を活性化し、幹細胞自身がオーキシンを生産するしくみを支えていることが分かりました。生産されたオーキシンは周辺領域へ運ばれ、器官形成を促すシグナルとして働きます。つまり幹細胞領域は、周囲の細胞の分化を制御しつつ、自らはその影響を受けない司令塔(オーガナイザー)として機能しており、MpARF2 はその中核的な因子であることが明らかになりました。本成果は、植物の永続的な成長を支える基本原理の解明に大きく貢献するものです。
本研究成果は2025年12月6日(日本時間)にElsevier社が刊行する国際科学雑誌「Current Biology(電子版)」に掲載されました。
図1. ゼニゴケの野生型株とMpARF2遺伝子を破壊したMparf2ge株
【用語解説】
※1 成長点
植物体の先端に位置し、細胞分裂が活発な領域。メリステムとも呼ばれる。茎?葉?根などの器官はこの領域からつくられ、植物の成長と形づくりの中心的な役割を果たす。
※2 幹細胞
未分化な状態で自己複製し、必要に応じてさまざまな細胞に分化できる細胞。植物の幹細胞は成長点に局在し、新しい器官をつくるもととなる。
※3 無限成長
植物が一生を通じて新しい器官をつくり続ける性質。
※4 コケ植物
陸上植物の一グループで、苔(たい)類?蘚(せん)類?ツノゴケ類に細分される。陸上植物のなかで最も早く分岐したグループであり、植物の起源や発生のしくみを研究するうえで重要なモデルとなっている。
※5 ゼニゴケ
コケ植物の苔類に属する。学名Marchantia polymorpha。2017年に全ゲノムが解読され、実験室内での培養や遺伝子改変が容易などの理由から、研究モデルとして広く用いられている。
※6 オーキシン
植物ホルモンの一つ。植物がもつ天然オーキシンの代表はインドール-3-酢酸(IAA)。細胞分裂や器官形成、光や重力に対する屈性反応など、植物の成長や環境応答を調節する。
※7 ARF
オーキシンによる遺伝子発現制御を担う転写因子群。オーキシン応答性遺伝子をコードするゲノム領域に結合し、遺伝子の発現を促進または抑制する。植物種によっては多数のARFをもつが、ゼニゴケには3つだけ存在し、このうちMpARF1とMpARF2がオーキシン応答に関わる。
【論文情報】
雑誌名:Current Biology
論文タイトル:The B-class auxin response factor MpARF2 is essential for meristem organization in free-living plant gametophytes
著者:Eduardo Flores-Sandoval*, Hidemasa Suzuki, Jessica A. Lazner, Liam N. Briginshaw, Tom J. Fisher, Facundo Romani, Jonathan Levins, Emi Hainiwa, Takeshi Kinami, Yusei Imai, Emi Yumoto, Masashi Asahina, Takayuki Kohchi, Ryuichi Nishihama*, and John L. Bowman*.
(*: 共同責任著者)
DOI:10.1016/j.cub.2025.11.015
問い合わせ先
東北大学大学院生命科学研究科広報室
TEL: 022-217-6193 FAX: 022-217-5704
E-mail: lifsci-pr*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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