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単一コロイド量子ドットで電気的なスピン検出と制御に成功 ~環境調和型材料から拓く量子?スピントロニクス技術~

【本学研究者情報】

〇材料科学高等研究所/電気通信研究所 准教授 大塚朋廣
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 半導体コロイド量子ドット1個における単一スピン状態の評価と磁場制御に成功
  • 単一電子トランジスタで室温動作を実現
  • RoHS準拠の環境適合材料を用い、持続可能な量子情報?スピントロニクス応用へ前進

【概要】

半導体コロイド量子ドット*1は、人工原子とも呼ばれる半導体の極微小な粒子で、太陽電池などの光電デバイス*2の活性層として近年注目されており、これまでに光学的特性は比較的よく研究されてきました。一方で、コロイド量子ドットの電気的性質の研究は少なく、特に単一のコロイド量子ドットの電気伝導の評価は技術的に困難であるためほとんど行われておらず、解明すべき問題が数多く残されています。

本研究グループは、2年前に半導体コロイド量子ドット1個を用いた単一電子トランジスタ(Single-Electron Transistor: SET)*3を作製し、従来困難だった単一量子ドットの電気伝導の詳細な評価に成功するとともに、室温でのSET動作を初めて実現しました。この成果は、コロイド量子ドットの光電デバイスや量子情報デバイスへの応用に向けた重要な第一歩となりました。

今回の研究では、その成果をさらに発展させ、RoHS規制に準拠した環境負荷の低いInAsコロイド量子ドットを用いたSETにおいて、磁場下での電気伝導特性を解析することで、単一スピン状態の評価と制御に成功しました。これにより、単一電子だけでなく単一スピンの操作が可能であることを実証し、量子情報デバイス*4やスピントロニクスデバイス*5への応用に向けて大きな前進を果たしました。?

本研究成果は公益財団法人高橋産業経済研究財団、公益財団法人JKA研究補助事業などの支援を受けて実現しました。成果論文は米国化学会が刊行する国際学術誌「ACS Nano(エーシーエス?ナノ)」に2026年1月4日付で掲載されました。

図1 1個のコロイド量子ドットを用いた単一電子トランジスタ(SET)の試料構造
(a)間隔がナノメートルサイズの金属電極(ナノギャップ金属電極)と電極間に分散したInAsコロイド量子ドットの電子顕微鏡写真。コロイド量子ドットは直径6ナノメートル程度。左下の線の長さが50ナノメートルを表す。(b)InAsコロイド量子ドット1個を用いたSETの試料構造と測定回路を示す模式図。ソース?ドレイン電極間に電圧をかけ、量子ドットを介した電流を測定する。ゲート電極に電圧をかけることで量子ドットを流れる電流を制御できるトランジスタ構造となっている。

【用語解説】

*1)半導体コロイド量子ドット
量子ドットとはナノメートルスケールの半導体微粒子で、電子が量子力学的な飛び飛びの電子状態を持つことから「人工原子」とも呼ばれる。2023年には量子ドットの発見者3名がノーベル化学賞を受賞した。本研究で用いたコロイドInAs量子ドットは、表面保護膜(有機配位子)によって安定化され、溶液プロセスで容易に取り扱うことができ、電子デバイスへの応用が可能である。さらにRoHS規制に準拠し、鉛を含まないため環境負荷の低い材料である。

*2)光電デバイス
光を放出するか、光を検出することができる電子デバイスの一種。光と電荷の相互作用を利用して、光を電気信号に変換したり、その逆を行ったりする。代表的な例は、前者が太陽電池、後者がディスプレイである。

*3)単一電子トランジスタ
1個1個の電子をゲート電圧で制御して流すことができる究極の省エネルギー素子。作製には、2つの電極の間に数百~数ナノメートル程度の"島構造"を準備する必要があるなど、非常に高度な作製技術が要求される。"島構造"のサイズが小さいほど量子力学的な効果が顕著に観測され、高温動作も可能になる。本研究では、直径が6ナノメートル程度の微小なコロイドInAs半導体量子ドットを単一電子トランジスタの"島構造"として用いている。

*4)量子情報デバイス
単一の光子や電子、スピンなどに情報機能を持たせることで情報処理を行う電子デバイス。次世代の情報処理や通信を担うとされており、量子コンピュータや量子暗号通信、量子センサなどに用いられる。単一光子発生器?検出器や単一電子トランジスタ、単一光子?スピン変換デバイスなどが該当する。

*5)スピントロニクスデバイス
スピントロニクスは、電子の電荷に加えて「スピン(磁気的性質)」を利用する技術で、情報の記録 や処理を高効率に行える次世代デバイスとして注目されている。スピントロニクスデバイスは、低消費電力?高速動作?高集積化が可能で、量子情報処理への応用も期待されている。

【論文情報】

雑誌名:「ACS Nano」
論文タイトル:Magnetotransport and Coulomb Blockade in Single InAs Colloidal Quantum Dot Transistors
著者:Kenji Shibata, Tomoki Takiguchi, Akira Sato, Yuto Sasaki, and Tomohiro Otsuka
DOI:https://doi.org/10.1021/acsnano.5c14784

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問い合わせ先

(取材に関すること)
東北大学材料科学高等研究所 広報戦略室
Tel:022-217-6146 
E-mail:aimr-outreach*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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