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電子のふるまいを1マイクロメートルの細かさで見る顕微鏡の開発に成功 ~量子材料?次世代情報処理デバイス開発の加速に期待~

【本学研究者情報】

〇学際科学フロンティア研究所 助教 鈴木博人
研究所ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 量子材料中の電子状態を放射光で計測する手法である共鳴非弾性X線散乱(RIXS)では、従来、精度(エネルギー分解能)と位置情報(空間分解能)の両立が困難でした。

  • このたび、X線光子の空間情報を逆算する新たな手法により、超高エネルギー分解能と1 マイクロメートル以下の空間分解能を両立させて試料中の電子状態の分布を可視化する「2D-RIXS顕微鏡」を世界で初めて開発しました。
  • 今後、スピントロニクス材料、ナノデバイス内部の電子状態を高精細に観察できる新技術として期待できます。

【概要】

量子科学技術研究開発機構(QST)の山本航平研究員、宮脇淳主幹研究員、東北大学学際科学フロンティア研究所の鈴木博人助教らの研究グループは、ナノテラス(注1)に設置した電子状態のわずかなエネルギー差を見分ける超高エネルギー分解能をもつQSTの共鳴非弾性X線散乱(RIXS:注2)装置「2D-RIXS」において、物質中の電子のふるまいを1マイクロメートル以下の精度で可視化することに世界で初めて成功しました。本装置は、ナノテラスの高輝度X線と独自の光学設計を組み合わせることで、これまで困難だった「材料内部の量子状態の空間分布」を、顕微鏡のように直接観測することを可能にします。本成果は、量子材料やスピントロニクス材料、次世代情報処理デバイスの研究開発を大きく前進させるものです。

RIXSは電子や原子、スピンの量子力学的な電子状態を直接調べる強力な手法です。これまでRIXSはエネルギー分解能の向上をめざして開発が行われてきました。QSTは、世界最高のエネルギー分解能の装置「2D-RIXS」を独自に開発し、20253月から広く研究者に利用されています(注3)。一方で、微細化が進む半導体デバイスや、不均一性が鍵となる量子材料の研究の進展に伴い、「どんな電子状態か」だけでなく、「それが試料中のどの位置に存在するのか」を知ることが不可欠になってきました。

超高エネルギー分解能を失うことなく、空間分解能を手に入れるためにはどうすればよいのか?この問いに研究チームは「2D-RIXS」装置の原理を根本から見直しました。「2D-RIXS」装置では、超高エネルギー分解能を達成するために、X線を当てて得られた試料全体の信号を足し合わせて強度を高めていますが、この足し合わせる前の個々のデータには試料中のどの位置から来た信号であるかの情報も含まれていることに研究チームは着目しました。この着想をもとに、空間分解能の評価と光学系の精密な制御という地道で粘り強い検証を積み重ねた結果、一つ一つのX線光子ごとに空間情報をたどる手法を確立し、これまで両立不可能であった超高エネルギー分解能と高空間分解能を同時に実現しました。

この新しい技術はナノテラスの共用実験制度において利用可能であり、今後、材料内部の電子状態をこれまでにない高精細で描き出す技術として、次世代デバイス開発への貢献が期待されます。

この研究成果は、学術誌Journal? of Synchrotron Radiation2026311日付(日本時間)で掲載されました。

図1:  超高エネルギー分解能と高空間分解能を両立する「2D-RIXS顕微鏡」の概念図。
2024年にQSTが開発したナノテラスの「2D-RIXS」装置では、一般的なRIXS装置(上段左)と比較して、電子状態の違いを格段に精細に識別できる超高エネルギー分解能を達成した(上段右)。さらに本研究では、高い空間分解能を持った計測も同時に実現し、試料内部の量子状態の分布を顕微鏡のように直接観察することに成功した(下段)。下段のイメージは2D-RIXS顕微鏡によるニッケル薄膜微細構造の空間分解測定結果。多彩な磁性体のスピン状態を担うニッケル3d電子に対応するRIXS信号を用いることで、スピン状態を応用したデバイスを模擬してシリコン基板上に形成した微細パターンの電子状態分布をマッピングした(色はニッケル3d電子の情報に対応している)。本結果は、850エレクトロンボルト付近の軟X線を用いて、空間分解能1マイクロメートル、エネルギー分解能約17ミリエレクトロンボルトでのRIXSイメージングが可能であることを示している。

【用語解説】

(注1) ナノテラス(NanoTerasu)
3GeV高輝度放射光施設NanoTerasuは、1メートルの10億分の1というナノの世界を観察することができる世界最高水準の先端大型研究施設。NanoTerasuは、電子を加速器によりほぼ光の速さまで加速し、太陽光の約10億倍にも及ぶとても明るい放射光というX線を発生させ、これを物質に照らすことにより観察を行います。このような観察を通じて、基礎科学はもちろんのこと、エネルギー、材料、デバイス、バイオ、食品など様々な産業領域において幅広く利用され、科学とイノベーションの両面を支えます。

(注2) 共鳴非弾性X線散乱(RIXS: Resonant Inelastic X-ray Scattering)
試料に含まれる化学元素の吸収端に合わせた軟X線を照射し、散乱されて出てくる光のエネルギーを調べる分光法のことです。軟X線は波長が約1ナノメートルから10ナノメートルの間の光であり、物質内部の電子の性質を調べるのに有用で、使う波長を選ぶことにより、化合物のなかから特定の元素軌道に関する電子状態を抽出することができます。QSTが開発したナノテラスのRIXS装置「2D-RIXS」は世界で最高のエネルギー分解能をもちます。

(注3)2024年9月18日QSTプレスリリース:物質の未知の振る舞いに迫る!新世代の分析技術でエネルギー分解能の世界記録を更新 ~NanoTerasuが2025年3月から世界最先端の分析装置を共用~
https://www.qst.go.jp/site/press/20240918.html

【論文情報】

タイトル:2D-RIXS: Resonant inelastic x-ray scattering microscopy with high energy and spatial resolutions
著者: Kohei Yamamoto, Hakuto Suzuki, and Jun Miyawaki
掲載誌:Journal of Synchrotron Radiation
DOI:10.1107/S1600577526000573

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問い合わせ先

東北大学学際科学フロンティア研究所 企画部
藤原英明 特任准教授
E-mail:hideaki*fris.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

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