平成30年度東北大学入学式祝辞
東北大学に入学された皆さん、誠におめでとうございます。本日ここに、学部生二四九〇名、大学院生二四一四名、合計四九〇四名の学生諸君を迎えることができたことは、私たちの大きな喜びとするところです。東北大学を代表して、皆さんの入学を心より歓迎いたします。また、皆さんの勉学を、今日まで、献身的な愛情をもって励まし続けてこられたご家族や関係者の皆様に対し、心より祝意を表します。
皆さんが東北大学の一員となった最初の日に、私はまず、東北大学とはどのような大学であるか、というところから話を始めたいと思います。
東北大学は、日本で三番目の帝国大学として明治四十年、一九〇七年に建学されました。今から百十一年前のことです。現在、「杜の都」と呼ばれる仙台に、四季の気配を色濃く映す四つのキャンパスを構え、そこに十の学部と十五の大学院研究科、三の専門職大学院、六の附置研究所に加え、教育研究に携わる機構?センターと図書館?病院などがあります。本学は、「研究第一主義」の伝統、「門戸開放」の理念、及び「実学尊重」の精神のもと、多くの指導的人材を輩出し、また研究成果を挙げてきました。
その一端をご紹介しましょう。
一つは電気自動車や発電機などに使われる磁石です。本学第六代総長の本多光太郎先生が、一九一六年に、当時世界最強の磁石であったKS鋼を発明しました。現在、世界最強の磁石であるネオジム磁石も、本学の大学院を修了した佐川眞人氏の発明によるものです。その前まで世界最強であった、サマリウムコバルト磁石を発明した俵好夫氏も、本学大学院の修了生です。お嬢さんの俵万智さんが「ひところは『世界で一番強かった』父の磁石がうずくまる棚」と「サラダ記念日」で詠んでいますので、記憶している方もいるのではないでしょうか。
情報通信分野に目を向けますと、現在も世界中の屋根の上に見られる、八木?宇田アンテナは、一九二六年に本学で発明されました。光通信の三大要素は、第十七代総長の西澤潤一先生の提唱によるものですし、世界の全てのハードディスクドライブに使われている垂直磁気記録方式は、一九七七年に岩崎俊一先生が発明しました。皆さんが毎日使っているスマートフォンには、フラッシュメモリが使われていますが、これは卒業生で本学名誉教授の舛岡富士雄先生が発明したものです。ソーシャルメディアも動画共有サービスも、これらの技術なしでは成り立ちません。現代社会の基盤には、本学関係者の研究成果があるのです。
人文社会科学分野では、「臨床宗教師」に関する取り組みをご紹介しましょう。東日本大震災の被災地では、宗教者による支援活動が活発に行われ、それぞれの宗教の立場をこえた連携が深まりました。これを受け、本学では、九四年の歴史をもつ宗教学研究を基盤として、人々の苦しみを受けとめる役割を果たす、新たな高度専門職業人「臨床宗教師」の養成が進められており、広く注目されています。
このように東北大学は、長期的な世界最高水準の基礎研究を通して、新しい学問領域を創出し、社会を変革する成果や活動を生み出しています。
さて、私たちが生きている時代は、今まさに、大きく変わろうとしています。専門家も含め多くの人は、第四次産業革命の進行、特に人工知能の急速な普及により、社会の仕組みが根底から変わるのではないかと考えています。ゲノム編集をはじめとする生命科学における急速な技術革新も、社会に大きな変化をもたらしつつあります。また、流動化する国際情勢も、世界が転換期を迎えていることを示唆しています。日本は、これまで、グローバル化した社会において大きな貢献を果たし、独自の存在感を発揮してきました。しかし、当然ながら、そこに住む私たちも、変化に無縁ではいられません。従来の価値観が大きく変わり、政治、経済、社会の仕組みも動揺しています。
それでは、進むべき指針のない激変の時代に、本学に入学された皆さんは、どのようにして平和で、豊かさや安心を実感することのできる未来を、世界の人たちとともに創りあげていけばよいのでしょうか。
道なき道を行くのは勇気のいることでしょう。しかし、ぜひ、本日から自らの中にある「エンジン」を始動させてください。東北大学での学問は、大学合格を目指す直線的な学びとは異なります。これまでは、既知なる正しい答えが存在するということが前提にありました。言ってみれば、それはサッカーの試合で活躍するために、正確なパスの練習をするのと同じようなもので、試合そのものとは異なります。皆さんに特に心がけていただきたいと願っているのは、学んだもので未来を切り拓くために、自らの中にある「エンジン」、つまり「挑戦する心」を始動させてほしいということです。
どうすればエンジンがかかるのか、と思う人もいるかもしれません。まず皆さんが、今やってみたいと思うこと、例えば留学であるとか、興味を持った専門を極めるとか、スポーツであるとか、自分を深め、仲間や先輩?後輩あるいは社会と関わること、これらを実際に実行に移してみることから始めてほしいと思います。東北大学は、皆さんのチャレンジを後押しするさまざまな仕組みや環境を用意しています。皆さんが入る全学同窓会、萩友会もそのような場としてあるのです。自分のやってみたいことに取り組み、生き生きと楽しみながら新たなことに挑戦する、その中でさらに実行力や構想力を磨く、これが予測できない未来を切り拓く原動力になります。「チャレンジして失敗することを恐れるよりも、何もしないことを恐れろ」とは本田宗一郎さんの言葉です。総長としての私の最も重要な仕事は、「学生諸君の挑む心を受けとめ、伸ばすこと」であると思っています。
さて、未来は予測できないと言いましたが、少しだけ私自身の経験にも触れたいと思います。私自身の研究を振り返っても、予想外の出来事の連続でした。そもそも研究の面白さ、知的好奇心に導かれて半導体の基礎研究の世界に入りました。基礎研究というものは、いつ何の役に立つのかも分からないのですが、推理小説を読むように面白いのです。「これを知りたい」、「この現象はどこから出てくるのか」と思い、わくわくしながら取り組んだ研究が発展し、半導体と磁性体の世界に橋をかけるスピントロニクスという新分野の創成に関わることになりました。この基礎研究を通して、世界中にたくさんの仲間ができました。実は、スピントロニクスが、省エネルギーの情報処理や人工知能(AI)のために実際に役に立つことが示され、本格的な実用化へ動き出したのは、かなり最近のことです。基礎研究をスタートした当初は、まったく予想もしなかった展開でした。私にとって、スピントロニクス研究は、海図のない海を進むようなものでしたが、まさに楽しい挑戦でした。皆さんも、ぜひ、自分の挑戦を楽しんでいただきたいと思います。
ここで、文系と理系の関係についても触れておきましょう。目的があらかじめ定まった中で、どのように効率的にその目的を実現するかは、理系、中でも私が関わってきた工学系の学術の得意とするところです。しかし、人間と社会に対する理解、いわゆる文系的素養がなければ、その肝心の目的を定めることができません。また逆に目的を定めるにあたって、理系的素養がなければ適切な検討を進めることはできません。ここでは話を分かりやすくするために単純化していますが、自分は文系だから、理系だからと思っていても、広い文?理にわたる教養、歴史的、文化的素養を身につけることは、私たちの生きる楽しみを増やすのみならず、未来を切り拓くために極めて重要であることを心に留めておいてください。
冒頭で東北大学に関わる優れた研究成果の一部を紹介しました。これらは私たちの輝かしい伝統の一部です。私たちにとって、伝統とはどのような意味を持つのでしょうか。伝統とは、本学の歴史から見て、現在の私たちに期待される高いスタンダードのことです。先達の足跡を見て自らを奮い立たせる、そのようなスピリッツをこの伝統が与えてくれています。これまでの高いスタンダードを基盤として、東北大学は、昨年六月、東京大学、京都大学と共に、最初の指定国立大学法人として認定されました。そこで掲げたのは、「創造と変革を先導する大学」となる構想です。時代に追従するのではなく、未来を切り拓き先導するのは、学生諸君、教職員、私も含めた、東北大学全体の真剣な営みなのです。
そのすばらしい伝統の中で、皆さんには「青は藍より出でて藍より青し」を目指してほしいと願っています。私たちは、次世代の有為な人材に対する深い愛情と敬意をもって皆さんを迎え入れます。皆さんが、私たちを大きく越えて成長されることを心より望っています。
七年前、東日本大震災が発生し、本学も大きな被害を受けました。その当時、自分たちの復旧活動と並行して、教職員?学生が一丸となって地域の復興を後押しする百以上の自発的な取り組みがわき起こり、「東北大学復興アクション百プラス」と呼ばれました。これらの取り組みは、その後、災害科学国際研究所や東北メディカル?メガバンク機構の創設をはじめとする、復興後の社会を先導する研究へと結実しています。被災地に目を転じると、復興への道は、未だ途上に過ぎません。現在も続けられている復興アクションを通して、私たちは、「社会と共にある大学」という新たなアイデンティティを獲得しつつあります。3.11の記憶を土台として、自ら考え行動することは、私たちが世界の人々と共に未来を切り拓くための重要な視点でもあるのです。このことを新入生の皆さんと共有したいと思います。
本日の入学式には、多くの海外からの新入生が出席しています。東北大学は、建学当初から世界に開かれたグローバルな大学であり、日本各地はもとより、世界の百カ国近くの国?地域から訪れた留学生が学んでいます。本学の学生、教職員、そしてこの仙台の市民は、皆さんを優しく迎え入れ、価値観を共有したいと願っています。ここで海外からの皆さんのために英語でお話しします。
I would also like to take this opportunity to address our non-Japanese speaking students.
As President of Tohoku University, I welcome you to your new home.
I would like to congratulate you on your successful admission and I am delighted that we can include 4904 bright minds to our community.
Tohoku University was founded in 1907 as the third National University of Japan.
Our core values have been "雷速体育_中国足彩网¥在线直播 First", "Open Door" and "Practice-Oriented 雷速体育_中国足彩网¥在线直播 and Education" from the very beginning.
Our aim has always been to innovate, to improve communities both at home and abroad, and to enhance the lifestyle of the people.
We have established a place where people can gather, learn and create; a place where every member is able to fully unfold their unique potentials.
I will not go into further details of our history, but I just want to mention that last year our university was selected as one of the first three Designated National Universities by the Japanese government.
You will be part of a community of scholars who have overcome much and achieved even more.
And your spirit to accept new challenges will be the fuel for our entire community.
And while Tohoku University is one of the leading universities in Japan, the region of Tohoku has four distinct seasons, which can be experienced on our four campuses -- from the cherry blossoms you can observe right now, to the beautiful colors of autumn.
Now, before I make a few concluding remarks in Japanese, let me just say this:
There will be times when you might struggle, times when you doubt yourself, times when you have to go to your limits and push your own boundaries.
But you will learn from your experience and you will emerge as a more sophisticated version of yourself.
And I am convinced the coming years will be one of the most fruitful of your life.
Welcome to Tohoku University.
皆さんが、挑戦する心をエンジンとして、本学で生き生きと自らの能力を伸ばし、世界に向けて大きく飛躍することを期待して、私のお祝いの言葉といたします。
平成30年4月4日
東北大学総長
大野英男
(於:カメイアリーナ仙台)