令和2年 東北大学総長 年頭所感
明けましておめでとうございます。穏やかなお正月を過ごされたことと思います。今年もどうぞよろしくお願いいたします。
文部科学省の学校基本調査によると、わが国の2019年における4年制大学進学率は53.7%です。今年から家庭の経済状況に関する一定の条件を満たす学生は、教育費の支援が受けられますので、進学率はさらに上昇しそうです。しかし、少子化に伴う18歳人口の減少により、大学進学者の絶対数は今後減っていくと予想されています。
国立大学の定員は現在約95,000人です。18歳人口の減少を受けて、定員を減らすことを検討すべきとの議論があります。高等教育の機会を減らすことが、わが国の将来にとって賢明なこととは思われません。
社会は知識集約型へと変化しています。この変化を先導するには人文社会系、生命医学系、理工系を横断する不断の研究が必要です。国立大学はわが国の先端研究をけん引しています。例えばわが国のトップ10%論文(被引用数がトップ10%に入りインパクトが高いとされる論文)の50%強は国立大学からのものです。また、民間企業等からの研究費のほぼ3/4は国立大学に投入されています(国立大学協会調べ)。定員を減らすことは、そのような環境で勉学し教育を受ける機会を減らすことになり、また研究をはじめとするわが国の活力をそぐことになります。
一方、18歳人口における大学進学者の割合が高くなると、入学者の学力が低下する恐れが指摘されています。しかし、本学のような世界と伍していくことが使命の指定国立大学にとっては、さらに多様な人材を受け入れ、教育と研究に一層の活力をもたらすきっかけとなると考えます。社会が大きな転換点?変革期を迎えているとき、簡単に答えが出ない課題にチャレンジして、自分自身で目標を見出し、未来を切り拓いていく、これまでにも増して多様で多彩な人材の育成が求められています。わが国を代表する研究大学である本学としては、多様な人材とその人たちによって生み出される知の多様性が生命線です。
そのためには、世界から多様なバックグラウンドの人材を受け入れ、ダイバーシティあふれる環境で学生が自ら考え挑戦することを重視した学びの経験を提供しなければなりません。その人材を、未知の世界に送り出し、翻って大学自身も世界に広がる多様な人材ネットワークを活用して大きな価値を生み出す、そのような大学が東北大学のあるべき姿です。この多様性を駆動力とする新たなステージに飛躍するためには、入学試験のあり方そのものを問い直すことも視野に入れる必要があると考えています。
例えば、本学では約25%の入学者を、学力も含めた総合的AO入試で選抜しています。今後、このAO入試を入学者の30%まで拡大するとともに、世界から卓越した学生を集める国際コースの拡充を図っていきます。高いポテンシャルをもった多様な人材を受け入れる仕組みをさらに発展させていくことで、本学のあるべき姿を実現できると考えます。
多様なバックグラウンドをもつ学生が集い、まだ答えのない課題に取り組む能力を身につける場としての大学、私たちには、そのような場にふさわしい学びのプロセスを創造していくことが求められます。多様性に富む学生と教職員によって本学はさらに高いレベルの研究を発展させることができるはずです。ただしそのためには、教育現場の抜本的な変化も必要になります。新たな科学教育プログラムの提唱者であり実践者でもあるノーベル物理学賞受賞者のCarl Weiman氏は、新しい教授法は歴史的に研究大学で開発されてきた、と述べています。まさに、教育と研究の共鳴が、創造と変革の原動力なのです。
時代は大学に対して、ジェンダー、国籍、才能などの観点から、より多様な人材を受け入れ、さらに豊かな教育?研究の環境を提供することを求めています。日本をリードする研究大学である東北大学の理念の一つ、「門戸開放」の現代的意味は、まさにこのことにあるのではないでしょうか。
令和2年1月6日
東北大学総長