2020年 | プレスリリース?研究成果
テラヘルツ光照射による細胞内タンパク質重合体の断片化 -THzパルス光が衝撃波として生体内部へ到達する可能性を発見-
【概要】
理化学研究所(理研)光量子工学研究センターテラヘルツイメージング研究チームの山崎祥他基礎科学特別研究員、保科宏道上級研究員、大谷知行チームリーダー、東北大学大学院農学研究科の原田昌彦教授、量子科学技術研究開発機構の坪内雅明上席研究員、大阪大学産業科学研究所の磯山悟朗特任教授、京都大学大学院農学研究科の小川雄一准教授らの共同研究グループ※は、水溶液中で培養した細胞にテラヘルツ(THz)[1]パルス光を照射した際、その光エネルギーが水溶液中を「衝撃波[2]」として伝搬し、細胞内のタンパク質重合体を断片化することを明らかにしました。
本研究成果は、THzパルス光が生体内の水に吸収されて衝撃波を生み出し、生体内部の細胞や組織に作用する可能性を示しており、今後の安全指針策定や、THz光を用いた新しい細胞操作技術の創出につながると期待できます。
今回、共同研究グループは、大阪大学産業科学研究所の自由電子レーザー[3]によって発生したTHzパルス光(周波数4 THz、80~250μJ/cm2)を、水溶液中の培養細胞に向けて照射したところ、細胞内に存在するタンパク質重合体(アクチン[4]繊維)が切断され、断片化することを発見しました。この断片化は、THz光が到達できない水深数mmで観察されたことから、THz光がタンパク質重合体に直接作用したのではなく、水表面で吸収された光エネルギーが衝撃波として水溶液中を伝搬し、細胞内のタンパク質重合体構造の変化を誘起したと考えられます。
本研究は、科学雑誌『Scientific Reports』オンライン版(6月2日付)に掲載されました。
水溶液表面で吸収されたTHzパルス光が衝撃波を発生させ、細胞内のタンパク質重合体(アクチン繊維)を断片化する
【用語解説】
[1] テラヘルツ(THz)
周波数が1012Hz(1兆ヘルツ)付近(0.1T~10THz)の電磁波。THz光は電波と光の中間に位置しており、その両方の特性を持っている。
[2] 衝撃波
圧力の不連続な変化(面)が流体内を伝播する現象。
[3] 自由電子レーザー
加速器で発生した高エネルギー電子線が、交互に反転した磁場分布を持つウィグラーと呼ばれる装置を通過するときに、光共振器に蓄えた光を何度も増幅して、大強度単色コヒーレント光ビームを発生する装置。大阪大学産業科学研究所のTHz自由電子レーザーは日本で唯一のTHz自由電子レーザーであり、この周波数領域では、他国のTHz自由電子レーザーより1桁ピーク強度が高いTHzビームを発生する。
[4] アクチン
アクチンは繊維化して細胞骨格構造を形成する主要タンパク質。皮膚の傷が治る際の細胞の移動や、がん細胞の浸潤?転移などにも中心的な役割を果たす。
問い合わせ先
東北大学 農学研究科?農学部総務係
電話 022-757-4004
E-mail:agr-syom*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)